データベースを扱う際、重複データは避けて通れない問題です。顧客リストに同じ名前が複数回登録されていたり、売上データに重複したトランザクションが含まれていたりすると、正確な分析ができなくなってしまいます。
そんな時に威力を発揮するのがDISTINCT句です。この記事では、DISTINCT句の基本的な使い方から、実際のビジネスシーンでの活用方法、さらにはパフォーマンス最適化のテクニックまで、プロダクトマネージャーやデータアナリストが知っておくべき知識を包括的に解説します。
1. DISTINCT句とは何か?なぜ重要なのか
1-1. DISTINCT句の基本概念
DISTINCT句は、SQLのSELECT文で使用される重要な機能で、取得した結果セットから重複する行を除外し、一意な値のみを返します。これにより、データの整合性を保ち、正確な分析結果を得ることができます。
実際のビジネスシーンでは、以下のような場面でDISTINCT句が活躍します:
- 顧客データの分析:重複したユーザー情報を除外して、実際のアクティブユーザー数を把握
- 商品管理:在庫データベースから実際に存在する商品の一覧を取得
- マーケティング分析:キャンペーンの効果測定で、重複したクリック数を除外
1-2. データ重複が引き起こす問題
データの重複は、以下のような深刻な問題を引き起こします:
分析精度の低下
- 売上データの重複により、実際の売上高が正確に把握できない
- 顧客数の水増しにより、適切なマーケティング戦略が立てられない
システムパフォーマンスの悪化
- 不要なデータの処理により、クエリの実行時間が長くなる
- ストレージ容量の無駄遣いによる、システム全体の効率低下
意思決定の誤り
- 重複データに基づいた間違った判断により、ビジネス戦略が失敗する可能性
2. DISTINCT句の基本的な使い方
2-1. 基本構文とシンプルな例
DISTINCT句の基本的な構文は非常にシンプルです:
SELECT DISTINCT 列名1, 列名2, ...
FROM テーブル名;
実際の例を見てみましょう。以下のような顧客テーブル(customers)があるとします:
-- 顧客テーブルの例
CREATE TABLE customers (
customer_id INT,
name VARCHAR(100),
prefecture VARCHAR(50),
city VARCHAR(50),
age INT
);
-- サンプルデータ
INSERT INTO customers VALUES
(1, '田中太郎', '東京都', '新宿区', 25),
(2, '佐藤花子', '大阪府', '大阪市', 30),
(3, '山田次郎', '東京都', '渋谷区', 28),
(4, '鈴木一郎', '大阪府', '大阪市', 35),
(5, '高橋美香', '東京都', '新宿区', 22);
このテーブルから重複のない都道府県一覧を取得する場合:
SELECT DISTINCT prefecture
FROM customers;
結果:
prefecture
----------
東京都
大阪府
2-2. 複数列での重複排除
DISTINCT句は複数の列に対しても適用できます。重要なのは、指定した列の組み合わせが一意であることです。
SELECT DISTINCT prefecture, city
FROM customers;
結果:
prefecture | city
-----------|------
東京都 | 新宿区
大阪府 | 大阪市
東京都 | 渋谷区
この例では、「東京都・新宿区」の組み合わせが複数存在していても、結果には一度しか表示されません。
2-3. 実際のビジネスケースでの活用

プロダクトマネージャーとして、以下のような場面でDISTINCT句を活用できます:
ユーザーエンゲージメント分析
-- アクティブユーザー数の取得
SELECT DISTINCT user_id
FROM user_activity
WHERE activity_date >= '2024-01-01';
商品カテゴリ分析
-- 実際に売れている商品カテゴリの取得
SELECT DISTINCT category
FROM sales
WHERE sale_date >= '2024-01-01';
3. DISTINCT句と他のSQL句の組み合わせ
3-1. ORDER BY句との連携:結果の並び替え
DISTINCT句で取得した結果を並び替えるには、ORDER BY句を組み合わせます:
SELECT DISTINCT prefecture
FROM customers
ORDER BY prefecture ASC;
この組み合わせにより、重複を除去した結果をアルファベット順や数値順で並び替えることができます。実際のビジネスシーンでは、以下のような使い方が効果的です:
- 売上レポート:月別売上を重複なく取得し、時系列順に並べる
- 顧客分析:地域別顧客数を重複なく取得し、都道府県コード順に並べる
3-2. WHERE句との協調:条件付き重複排除
WHERE句を使用することで、特定の条件を満たすデータのみを対象とした重複排除が可能です:
SELECT DISTINCT product_name
FROM orders
WHERE order_date >= '2024-01-01'
AND status = 'completed';
この例では、2024年1月1日以降の完了した注文のみを対象として、重複のない商品名を取得しています。
プロダクトマネージャー視点での活用例:
- A/Bテストの分析で、特定の期間にアクセスしたユーザーの一意な識別
- 特定の機能を使用したユーザーの重複のない抽出
- エラーログから重複のない問題の種類を特定
3-3. GROUP BY句との使い分け
DISTINCT句とGROUP BY句は、どちらも重複を扱いますが、用途が異なります:
DISTINCT句:重複行の単純な除去
SELECT DISTINCT customer_id
FROM orders;
GROUP BY句:グループ化と集計関数の組み合わせ
SELECT customer_id, COUNT(*) as order_count
FROM orders
GROUP BY customer_id;
GROUP BY句を使用することで、各顧客の注文回数も同時に取得できます。
3-4. COUNT(DISTINCT)の活用
COUNT関数とDISTINCT句を組み合わせることで、一意な値の数を簡単に取得できます:
SELECT COUNT(DISTINCT customer_id) as unique_customers
FROM orders
WHERE order_date >= '2024-01-01';
この機能は、KPI分析において非常に有用です:
- MAU(Monthly Active Users)の計算
- 商品の購入者数の把握
- キャンペーンの参加者数の測定
4. DISTINCT句のパフォーマンス最適化
4-1. インデックスの効果的な活用
DISTINCT句のパフォーマンスを向上させるには、適切なインデックスの設定が重要です。
-- インデックスの作成例
CREATE INDEX idx_customer_prefecture ON customers(prefecture);
CREATE INDEX idx_orders_customer_date ON orders(customer_id, order_date);
インデックスを設定することで、以下のメリットが得られます:
- クエリ実行時間の短縮:データの検索が高速化
- メモリ使用量の削減:効率的なデータアクセス
- システム全体のパフォーマンス向上:他のクエリへの影響も軽減
4-2. データ型の最適化
適切なデータ型を選択することで、DISTINCT句のパフォーマンスを大幅に改善できます:
文字列型の最適化
-- 効率的でない例
prefecture VARCHAR(255)
-- 効率的な例
prefecture VARCHAR(10)
数値型の選択
-- 効率的でない例
customer_id BIGINT
-- 効率的な例(データ量に応じて)
customer_id INT
4-3. クエリ構造の最適化
複雑なクエリでDISTINCT句を使用する場合、以下の点に注意してパフォーマンスを最適化できます:
サブクエリの活用
-- 効率的でない例
SELECT DISTINCT c.customer_id, c.name
FROM customers c
JOIN orders o ON c.customer_id = o.customer_id
WHERE o.order_date >= '2024-01-01';
-- 効率的な例
SELECT c.customer_id, c.name
FROM customers c
WHERE c.customer_id IN (
SELECT DISTINCT customer_id
FROM orders
WHERE order_date >= '2024-01-01'
);
EXISTS句との組み合わせ
SELECT DISTINCT c.customer_id, c.name
FROM customers c
WHERE EXISTS (
SELECT 1
FROM orders o
WHERE o.customer_id = c.customer_id
AND o.order_date >= '2024-01-01'
);
5. 実践的なDISTINCT句の活用例
5-1. Eコマースサイトでの活用
商品分析
-- 実際に売れている商品カテゴリの分析
SELECT DISTINCT
category,
COUNT(*) OVER (PARTITION BY category) as sales_count
FROM sales s
JOIN products p ON s.product_id = p.product_id
WHERE s.sale_date >= '2024-01-01'
ORDER BY sales_count DESC;
顧客セグメント分析
-- 購入経験のある顧客の年齢層分析
SELECT DISTINCT
CASE
WHEN age < 20 THEN '10代'
WHEN age < 30 THEN '20代'
WHEN age < 40 THEN '30代'
ELSE '40代以上'
END as age_group
FROM customers c
WHERE EXISTS (
SELECT 1 FROM orders o
WHERE o.customer_id = c.customer_id
);
5-2. SaaSプロダクトでの活用
機能使用状況の分析
-- 実際に使用されている機能の一覧
SELECT DISTINCT feature_name
FROM feature_usage
WHERE usage_date >= DATE_SUB(NOW(), INTERVAL 30 DAY)
ORDER BY feature_name;
ユーザーエンゲージメント分析
-- アクティブユーザーの地域分布
SELECT DISTINCT
region,
COUNT(DISTINCT user_id) as unique_users
FROM user_activity ua
JOIN users u ON ua.user_id = u.user_id
WHERE ua.activity_date >= DATE_SUB(NOW(), INTERVAL 7 DAY)
GROUP BY region
ORDER BY unique_users DESC;
5-3. マーケティング分析での活用
キャンペーン効果測定
-- キャンペーン参加者の重複除去
SELECT DISTINCT user_id
FROM campaign_participation
WHERE campaign_id = 'summer_2024'
AND participation_date BETWEEN '2024-07-01' AND '2024-07-31';
チャネル分析
-- 流入チャネルの多様性分析
SELECT DISTINCT
traffic_source,
COUNT(DISTINCT session_id) as unique_sessions
FROM web_analytics
WHERE visit_date >= DATE_SUB(NOW(), INTERVAL 30 DAY)
GROUP BY traffic_source
ORDER BY unique_sessions DESC;
6. DISTINCT句の高度な活用テクニック
6-1. ウィンドウ関数との組み合わせ
ROW_NUMBER()関数と組み合わせることで、重複データの特定と削除が可能です:
-- 重複データの特定
WITH DuplicateCheck AS (
SELECT
customer_id,
email,
ROW_NUMBER() OVER (PARTITION BY email ORDER BY created_at DESC) as rn
FROM customers
)
SELECT DISTINCT email
FROM DuplicateCheck
WHERE rn > 1;
この手法により、以下のような分析が可能になります:
- データ品質の監視:重複データの発生頻度を追跡
- データクレンジング:重複データの特定と削除
- マスターデータ管理:正規化されたデータの維持
6-2. 複合条件での重複排除
複数の条件を組み合わせた複雑な重複排除も可能です:
-- 複合キーでの重複排除
SELECT DISTINCT
customer_id,
product_id,
DATE(order_date) as order_date
FROM orders
WHERE order_date >= '2024-01-01'
AND status IN ('completed', 'shipped')
ORDER BY customer_id, product_id, order_date;
6-3. 条件付きDISTINCT
CASE文と組み合わせることで、条件に応じた重複排除が可能です:
-- 条件付きでの重複排除
SELECT DISTINCT
customer_id,
CASE
WHEN total_amount >= 10000 THEN 'Premium'
WHEN total_amount >= 5000 THEN 'Standard'
ELSE 'Basic'
END as customer_tier
FROM orders
WHERE order_date >= '2024-01-01'
ORDER BY customer_tier, customer_id;
7. DISTINCT句使用時の注意点とベストプラクティス
7-1. パフォーマンス上の注意点
大量データでの使用
-- 効率的でない例
SELECT DISTINCT *
FROM large_table; -- 全列でのDISTINCTは避ける
-- 効率的な例
SELECT DISTINCT column1, column2
FROM large_table
WHERE filter_condition IS NOT NULL;
NULL値の扱い
-- NULL値も重複として扱われる
SELECT DISTINCT category
FROM products; -- NULL値も1つの値として扱われる
7-2. データ型別の考慮事項
文字列データ
- 大文字小文字の区別
- 前後の空白文字の影響
- 文字コードの違い
-- 文字列の正規化
SELECT DISTINCT UPPER(TRIM(category))
FROM products
WHERE category IS NOT NULL;
日付データ
-- 日付の粒度に注意
SELECT DISTINCT DATE(created_at) as created_date
FROM orders
WHERE created_at >= '2024-01-01';
7-3. ビジネスロジックとの整合性
DISTINCT句を使用する際は、ビジネスロジックとの整合性を確認することが重要です:
- データの意味を理解する:重複排除が本当に必要か?
- 分析の目的を明確にする:何を知りたいのか?
- 結果の妥当性を検証する:期待される結果と一致しているか?
8. まとめ:DISTINCT句をマスターしてデータ分析を効率化

8. まとめ:DISTINCT句をマスターしてデータ分析を効率化
DISTINCT句は、データ分析において欠かせない重要な機能です。重複データの排除により正確な分析が可能になり、データ品質の向上とビジネス価値の創出を実現できます。
プロダクトマネージャーとして、SQLスキルを継続的に向上させることで、データに基づいた意思決定能力を高め、プロダクトの成功に貢献できるでしょう。実際の業務で積極的に活用し、データドリブンなプロダクト開発を実現してください。
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